よくメタルマスクの開口率というと、
「チップは90%開口ですよ」、とか
「1608以下は80%にしてます」などということをよく聞きます。
まずこの80%や90%とはどういう意味でしょうか。
例えば、「メタルマスクメーカさんに80%開口でお願いします。」と依頼します。ただこれだけでは2つの解釈ができます。
まず、辺の比率を80%にする場合。
開口面積は元のパッドに対して64%になります。(0.8*0.8=0.64)
面積比として80%にしたい場合は、辺の比率をそれぞれ90%に縮小します。
0.9*0.=0.81で、ほぼ元の面積に対して80%となります。
この、〇〇%開口という表現、発信側と受け取り側での認識が異なると、まるで違うものができてしまいます。メタルマスクメーカーによってどちらの表現が標準なのかまちまちですので、初めて出すところなどは最初に仕様確認をきちんと行ったほうが良いでしょう。
意外と思われるかもしれませんが、メタルガーバーの編集は口頭指示がまかり通っています。言った側と聞いた側の認識違いは致命的ですし、口頭では証拠が残りませんので失敗しても後の祭りです。十分注意しましょう。
メタルマスクの開口を決定するには、大きく分けて3つのパラメータが必要です。
メタルマスクメーカーに投げると、電極というパラメータが抜け落ちますし、パッド寸法の違いも無視されることがほとんどです。私もいくつかのメーカーさんと話をしましたが、単純に全部の開口部を80%にするという乱暴なところから、1608は90%、1005は80%とか、多少気を使うところもあります。
しかし、同じチップ部品を載せるのパッドでも設計者が変わるとパッド寸法も変わるということはほとんど無視されています。
こちらは1608チップのパッド設計例です。
1608設計例
X | Y | L |
500 | 800 | 2000 |
800 | 800 | 2400 |
770 | 850 | 2200 |
700 | 900 | 2000 |
他の部品でも同様です。例えばQFP等でもほとんどのメタルマスクメーカーが0.65mmピッチなら90%とか、0.5mmピッチなら80%開口とか、パッド寸法は無視されて開口寸法を設定されてしまいます。残念ながらこれでは最適な開口は設計できません。
試しに1608のチップを例に上の表を同じ比率で描いてみました。
面積比が80%となるような開口にしてみます。
これに部品を重ねてみます。
これを見ると一目瞭然ですが、パッド端から部品電極までの距離はまちまちですし、部品ボディがはんだを踏んでいたりいなかったり。同じ80%開口でもはんだ量も当然異なってきますし、一律80%がおかしいというのはお分かりいただけると思います。
残念なことですが、一部のメタルマスクメーカーではパッド寸法の違いを無視し、部品だけで開口を決めることを「標準化」と言っているところもあります。
しかし開口寸法を丸投げしている実装側にも問題はあります。メタルマスクメーカーは、メタルマスクガーバーとせいぜいシルクぐらいしかデータをもらえませんので、これ以上を求めても無理だと思います。
うちは、全部100%で開けて問題ないよ。というところもあるでしょう。
確かに稀に全部品100%開口で問題ないところもあると思います。しかしなぜそれで良かったかというプロセスを抑えておかなければ、いざ不良が出たときにどのようにアプローチしてよいかわからなくなります。以前にもご紹介したQFPのブリッジ等その典型例です。
もうちょっと具体的な例を示します。
パッドだけ見ると、SC88Aのミニモールドです。パッドに対して100%で開口しました。
印刷自体はツノもかすれもなく全く問題ありません。これに部品を実装しました。
この時点でリード間でソルダーペーストが接触してしまいました。このままリフローに流します。
ブリッジしてしまいました。
では、これはどうでしょう。
これもパッドだけ見ると、SC88のミニモールドです。パッドに対して100%開口です。
若干印刷がずれ気味ですが、問題ないレベルです。同じく部品を実装しました。
きれいに載っています。リフローに流します。
今度は問題ありません。100%開口でもうまく行く場合と、不良になってしまう場合、違いはなんでしょうか。このメカニズムをきちんととらえていないと、たまたまうまく行っていただけでいざ問題が起きたときに、手の施しようがなくなります。うまく行っている場合でも現象の観察を怠らないようにしましょう。
私の場合、新規の立ち上げなどがあるときは必ず、このように印刷、実装、リフロー後の写真を部品種ごとに撮って残しています。時間がない場合でも最悪リフロー後だけでも残します。もちろんその時のメタルマスクの開口条件も記録しておきます。こうしておけば、新規の部品があった場合でも過去に似たものがないか参考にすることができます。