リフロー前検査

リフロー前検査はすなわち、マウント後の検査です。

以前は、ほとんどこの位置に検査機を入れているところを見ることがありませんでしたが、最近その重要性が認知され徐々に増えてきているようです。なぜ、以前は検査装置を導入しなかったのでしょうか。


先日ある実装会社の方から、お話をうかがう機会がありました。

その方曰く、"リフロー前で基板を見ていたら上司にそんなことはいいから早く流せ、怒られる。"ということで大変困っているようです。実は私も似たような経験があります。なぜ彼らは目視確認を否定するのでしょうか。

ライン上での実装品質確認を否定する方々には共通点があると思います。それはとにかく早くワークを流せ、ということです。単位時間当たりの生産量が増えれば、それだけ見た目の効率は良くなるからです。しかし一時的に見た目の効率が良くなっても、全体でみると大変なマイナスになってしまう危険性を認識しなくてはなりません。

SMTという工法は要所要所で前工程の品質をチェックしないと、大変な損失を生む恐ろしい工法です。

マウンターの突発的不具合で多いのが、1枚だけ、あるエリアまたは全体の部品がほとんどずれたり、載っていなかったり、などの状態です。


1枚だけそんな状態が発生した後、次の基板からは何事もなかったの如く正常品が流れることがあります。これはなぜ起こるのでしょうか。

現在のマウンターはワンバイワン方式で、一つずつ部品を基板においていく方式です。必ず一つずつです。たとえヘッドが複数あってもノズルが複数あっても部品を置くときは1つずつ順序良くおいていきます。

この時に何らかの原因で、その一つの部品が別の場所に飛んでしまったとします。するとその場所に部品を置こうとすると、飛んできた部品と干渉しさらに部品が飛び散ります。この現象が連鎖的に繰り返され、基板上は手が付けられない状態となります。私の同僚はこの様をゴジラが暴れて通った後と表現しましたが、まさにそんな感じです。

私はこれを勝手にSMTのケスラーシンドロームと呼びました。

最初の1つ目がなぜ発生するのでしょうか。またそれを防ぐことはできないのでしょうか。


まず、マウンターについて考えてみましょう。

マウンターは電子部品をプリント基板上においていく装置です。現在では画僧認識の技術を用いて部品を撮像して、そのデータから部品重心を割り出したり、寸法をチェックして基板上の所定の位置に部品を置きます。

順序立ててみてみましょう。


1.テープやトレーなどから電子部品をノズルが吸い上げます。

2.吸い上げた部品をカメラまで運び撮像します。

3.撮像した画像から様々な情報を得て、基板の所定位置まで運び載せます。

部品を撮像するまでは確実に部品はノズルで持っていることはわかると思います。しかし、その先基板の上までは、「さっき確認したからあるだろう」という前提で動いています。たいていの場合カメラから基板所定位置まで何かが起きるという可能性は低いのですが、「全くなにもおきない」というわけではありません。例えばノズルの吸着の負圧が規定以下だったり、部品に対して適正なノズルを使用していない場合など、軸移動の加速度で部品がずれたり落ちたりすることもあります。


まず、基本に立ち返り、SMTの工法について考えてみます

SMTラインの品質管理をされている方なら、時々突発的に実装ずれなどの異常が発生し、すぐに元に戻ってしまうということを経験された方は多いでしょう。


おそらく月単位などにならしてしまうと、目立たない数値となってしまい、報告書からはその深刻さがうかがえなくなり、上に伝わらないことがあります。もちろん高額なプリント基板や部品が使われていれば大騒ぎとなるのですが、そうでもない限りは報告しても上司がもみ消してしまうということも、しばしば起こっているようです。


突発的に不良が発生する原因のほとんどは、設備の不具合や部品の納入品質の異常などにより発生した不良がそのまま下流に流れてしまうためです。

例えば、プリント基板に規定を超える反りがあり、そのまま印刷を行ったため印刷不良が発生し、検査装置がない等のシステムの穴があると簡単にリフローまで流れて行ってしまいます。目視工程がすぐに気が付けば、ライン上にある数枚から数十枚で不具合がストップし、何らかの対策を行い正常品が流れるため、突発的に発生して突発的に収束するわけです。しかもその時発生したNGの基板は力技で修正してしまい、何事もなかったの如く生産は継続されます。

このような突発的不具合で、私が経験した中ではマウンターにかかわる部分が多いと思います。ではマウンターによる突発的不具合とはどういったものでしょうか。

比較のためにインサーターの動作を見てみましょう。


インサーターは部品を挿入した後、リードをカットして基板から部品が抜けないようにリードを折り曲げるクリンチという動作を行います。このときカッターについている歪センサーでリードをカットしたかどうかを確認しています。

部品が挿入されずにカット動作を行っても、歪センサーは変化がないので部品がないということがわかります。部品がなければインサーターは動作を停止するか、リカバリーモードに入ります。部品が確実に挿入されないと、次の動作は実行できません(一部機種を除く)。つまり自己完結型とも言いかえることができます。

インサーターはそれ自身で自分の作業を確認しているわけですが、これに対してマウンターは多分載せただろう、という動きをしており、品質的には完結できません。

したがって、最近ではリフロー後はもちろん、リフロー前でも検査装置を入れて不良を後工程に流さない工夫がされています。最近のマウンターでは、仕様によって検査ヘッドを取り付けて実装状態を検査するものもあります。

分かりやすくマウンターを例にとりましたが、印刷機も同様です。印刷機もここに印刷しただろう、という前提で動作しており、確実にはんだがプリント基板上に転写されているかどうかは、検査してみないとわかりません。こちらも同様にオプションで検査カメラを増設できる設備が多くなってきました。


このように、SMT工法では各工程の後に「検査」という工程がないと、安心して流せられないという現実があります。

その不具合の発生確率が無視できるレベルであれば問題ないと思われがちですが、マウンターの場合は先にの例に示したように、たった一つの不具合が影響して連鎖的に不具合を発生させるため、一つの発生確率は無視できるほど低いとしても、特に実装密度の高いものに関しては、検査工程がないと危険であることはお分かりいただけるでしょう。

かなり前のデータですが、リフロー前の実装検査についての具体的な一例をあげます。

次の図に示した基板を検査装置を通した場合と、通さなかった場合のリフロー後の不適合発生数を比較したものです。


母数がそろっていませんが、これは基板が同じで載る部品が若干違うという仕様違いで試したためです。チップ部品の最小は1005です。リフロー後の目視検査にて、判定基準のマウントミス(欠品やずれ等)に限定して不適合をカウントしています。ppmの定義は部品点数を基準としています。当時のもので実にお恥ずかしい値ですが、検査装置の効果のほどが確認できると思います。

リフロー前の検査を行った場合、行わなかったときに比べ1/10程度に不適合が減っています。当然ですが、リフロー前の実装検査ではじかれたものは、手直しをして流しています。またこの検査結果から、どのマウンターのどのヘッド(ノズル)に異常が集中しているかも解析すれば判明します。

結果としてラインの直行率が上がるだけでなく、設備の異常を事前に把握し手を打つことが可能となります。

検査装置は不良流出を防ぐのが第一の目的ですが、実はそれ以上に吐き出されるデータを統計的に処理することにより、事前に不良の発生を防ぐことができます。道具は使いようです。検査装置を単なる仕分け機としてしか使わなければ、投資した金額を回収することはかなりの期間を要しますが、定量的なデータを有効に使えば、短期間で回収可能です。不良による損失金額は稟議書に書けませんが、検査装置によってとてつもない金額の浪費を防止していると思えば安いものです。

最近の実装会社では、印刷検査機はかなり認知度が上がり、接地されるようになってきていますが、以前よりは増えてはきたというもののリフロー前に検査装置があるところは少数派です。

これにはいろいろな理由があると思いますが、リフロー前から人を省きたかったら、十分すぎるほどの工程能力指数を持った印刷機とマウンターのラインを構築するか、リフロー前に検査装置を導入するしかないと思います。

オペレーターは決してリフロー前で休んでいるわけではなく、品質を守る活動をしているのだと思ってください。ワークの流れが阻害されていると思うのはお門違いです。そう思われている方は、今一度SMTという工法のあいまいさと品質保証にかかわる危険性を認識してほしいものです。