SMTラインのオペレーター

SMTラインのオペレーターの仕事は多岐にわたります。実装ラインというのは印刷、部品装着、検査等、様々な性格の違う装置が組み合わさって構成されており、それぞれの操作や段取りなどが大きく異なるため、1ラインを任せられるといろんなことを覚えなくてはなりません。なかなか製造ラインのオペレーターでこれだけいろいろやらされる職種も珍しいのではないでしょうか。

考え方にもよると思いますが、単純作業のオペレーターと割り切って、特定のボタンしか押させないという、液晶の製造ラインを目の当たりにしたとき、こんなところもあるのかとずいぶん驚いたこともあります。液晶の製造ラインも様々な性格の装置が組み合わさっているのですが、ある意味良くできた自動機でプロセス制御が完全に行われ、材料を正しく投入してしまえば余計なことはほとんどしなくて良いそうです。(もちろんいったんトラブルと大変らしいですが)私が見たところは、ガラスの搬入専門オペレーター、出口で待ってるオペレーター、切り替え専門オペレーター等、職種単位で人員を配置していました。良くこれで採算取れるなあ、と思っていたら案の定つぶれましたけど。

切削加工の加工機オペレーターでも、NCやマシニングセンター等ではワークの脱着が主な仕事で、装置が動いている間は、複数台持ちか、バリ取りをするなど、設備の加工時間帯をほぼ他の業務に充てることができるようです。もちろん設備のプログラミングなどできるスキルの高いオペレーターもいて、加工中に次の加工物のプログラミングなどをする人もいますが、装置にかかりっきりというわけではなさそうです。

あまり他の業種の工場は見たことがないのですが、改めてSMTラインは特殊な部類に入るのではと思っています。

ここでは、装置産業でも特殊な部類にあたるSMTのオペレーターとオペレーションについて考えてみたいと思います。

オペレーターコール

オペレーターコールは、一般的に設備に何らかの異常が発生し、オペレーターに操作を要求する信号(パトライトやブザーなど)を発生させることを言います。様々なエラーはもちろん、部品切れ等もオペレーターコールに入ります。これらオペレーターコールを含め、オペレーターに仕事をさせるものは、「イベント」と定義します。(私の勝手な定義です)これは、オペレータの仕事を分析するうえで必要で、たとえばマガジンが空になったよとか、テープ屑がいっぱいだよ等、オペレータに手間を取らせるものも、仕事をさせるものをすべて含めたいと思ったからです。

SMTラインのオペレーターはイベントが発生して初めて仕事が始まります。オペレータコールが発生するまでコール待機になります。(実際は待機するほど暇ではありません)

これに対して装置の組み立て現場等では、一旦作業を開始すると、トラブルが発生しない限り、順序通りに作業を続けて行えます。例えば、組み立て順序が下ケース→CPU基板→IO基板→表示基板→コネクタ接続→上ケースと連続して組み立て作業できますし、生産指示が複数台であれば、その工程の繰り返しです。この場合、作業順序は厳密に決まっており、いきなり上ケースから組み立てようとしても、組み立てられないと思います。

SMTラインの場合は、必ず上流から順に作業していくわけではなく、いつ印刷機から呼ばれるか、マウンターから呼ばれるか決めることは不可能です。したがって、オペレーターはニュートラルな状態でその目と耳とでライン全体をまんべんなく見回し、呼ばれた設備へ飛んで行ってお世話をしなくてなりません。作業の順序が特に決まっているわけではないのです。もちろん、個々の作業についてはその順序は決まっていますが、オペレーターコールの順序はオペレーターや管理者に選択権はありません。また同時にオペレーターコールが発生した場合、どれから手を付けるかを判断するには経験が必要でオペレーターのスキルが問われます。

実際のオペレーターコール

ライン構成は、

印刷→ロータリー×2→異型→リフロー

が2ラインとマガジンごと入れるバッチの外観検査装置です。

その当日は切り替え作業はありませんでした。同じ品種をまる24時間流し続けたものです。したがって性能稼働率を見る指標になります。この日はラインBで先面、Aで後面の実装を行っています。ラインBから排出されたマガジンラックはラインAのローダーへ投入ということになります。

装置別に発生時間で並べてみた図

パレート図

ダウンロード
イベント回数測定
24時間のイベント集計結果
events_graph.xlsx
Microsoft Excel 14.0 KB

マウンターは個別に分けてしまいましたが、部品補給を全部足すと191回です。基板の供給と合わせて材料の供給がひっきりなしです。

このデータは、回数のみのカウントです。

実際は発生したイベントを処理した時間、つまりラインの停止時間を加味しなくてはなりません。これが性能稼働率です。性能稼働率ではこれらの停止をチョコ停と呼んでいます。

改めて回数だけでも見て24時間で561回も設備から呼ばれていることになります。24時間と言えども、休憩時間がありますので、負荷時間(24時間から休憩時間などを引いた時間、すなわち設備を稼働させることができる時間)は、1260分です。

単純に1260/561=2.246、つまり2分15秒程度に1度は何かしらのイベントが発生している計算になります。

本構成のラインではオペレーターを3人投入しています。したがって一人頭に換算すると、6分45秒おきにイベントが発生していることになります。イベントが発生すればその処理が必要です。設備をなるべく止めないようにするには3人でも忙しいですね。

さらに実際は設備からだけでなく、作業中に誰かから問い合わせがあるとか、管理者に呼ばれるとかありますので、オペレーターがいかに多忙か容易に想像できると思います。

管理者の仕事は、オペレーターの仕事を止めることではなく、オペレーターコールを減らす、減らすのが難しければ、平準化(同時発生を少なく)する、等の改善でしょう。オペレーターコールを完全に予測することは難しいのですが、例えば部品補給などは生産計画とBOMと作業進捗で予測は可能です。フィーダーをあらかじめ準備しておく、フィーダーへの少額投資等やれることはたくさんあるのではないでしょうか。

適正なオペレーターの人数

2本のラインでオペレーター3人?と思われた方がいらっしゃるかもしれません。

ライン編成とオペレータの人数ですが良くありがちなのが1ライン1人。「まだそんなのいいよ、うちなんか3ラインもちだぞ」というところもあるでしょう。もちろんライン編成や流している基板品種、切り替え数にもよるでしょうが、1ライン1人はわりと多い配置ではないでしょうか。その考え方で行くと2ラインで3人は贅沢なのかもしれません。

しかし、調査したイベント回数を見てください。2人で処理すると1人あたり4分30秒に1回のイベントとなります。1回あたりのイベントの処理時間を考えるとラインが止まりっぱなしです。そこで3人目の投入となるのですが、このオペレーターは非常に重要な役割をします。私は勝手にこのオペレーターをコーディネーターと呼んでいます。

コーディネーターは設備に張り付くのではなく、フロア全体を見回し戦力の不足しているところに自分自身や他のオペレーターの等の戦力を集中させ(もちろん私も手伝います)、ラインの停滞をいかに少なくするか、という役割を担うと同時に、品質的なトラブルに対して的確な報告を上にあげる義務があります。コーディネーターはすべての設備の操作手順はもちろん、エラー回避の方法、トラブルの対処、生産進捗の監視など、多様な業務をこなさなくてはなりません。

現場監督かと言うとそうでもなく、司令塔と言う感じでもないし、なかなかしっくりする呼び名がないので、管理部門の計画をアレンジしそれを調整するというので、コーディネーターとしています。まあ強引なたとえで言うとバレーでいうリベロのポジションに近いのではないでしょうか。


コーディネーターには生産スケジュールの調整などの権限も委譲されており、夜間など上位者がいない場合でも、材料の供給や製品納期などから生産順序を入れ替えるなどの、高度で総合的な判断をすることもあります。

もちろん、上位者がいる場合は直ちに報告し判断を仰ぎますが、現場で処理しきれる細かな問題はその場で判断し処置し事後に報告するという形を取ります。ただこれが弊害になっていることもあり、良いか悪いか今のところケースバイケースと言ったところでしょうか。

本来は生産管理者が工程進捗のスペシャリストであるべきなのですが、SMTラインはまずどこの工場でも特殊工程とされ、ホワイトカラーの皆さんはなかなかその中身に触れたくないようで、ほぼ現場任せと言った感じがぬぐえません。それにはさまざまな理由があるのですが、自動機と言えどもあまりにも外部要因による生産進捗のばらつきが大きく、現場を見ていないとわからないというのが、一番の問題だと思います。そのため、現場任せゆえに、気が利いて何でもできるコーディネーターは重宝されてしまいます。

コーディネーターは機種切り替えが重なるときなど、一時的に工数が足りないときは他への応援依頼も行います。そのため工数の読みが非常に重要で、フィーダーをどのくらい付け替えなければならないのか、何枚の生産でどのくらいの時間で終了するのか、それに間に合わせるには何人必要か?自分自身だけの手伝いで間に合うのか?を短時間で判断しなくてはなりません。生産枚数が多い(ロットが大きい)場合はあまり問題にならないのですが、生産枚数が少ない(小ロット)品種が続くと、瞬時にその計算をしなくてはならないため、先読みの能力が問われます。ここが現在各社から提供されているスケジューリングソフトの不得意なところでしょう。ソフトはリール部品はフィーダーにつけられていることが前提で時間を計算しますので、コーディネーターのようなきめ細かい読みができません。そういった意味ではもうちょっと各メーカーさんには頑張ってほしいところです。


SMTは自動機ラインとされていますが、世間でいう自動機とやや意味が異なると思います。一般的な自動機ラインのイメージは無人化され、ボタン一つで製品が組み立てられていくイメージがありますが、SMTラインでは、現状では無人化できるほどインプットされる材料やその他外部要因のばらつきを抑えられていません。特に国内では究極まで多品種少量の生産方式となり、無理に無人化を目指すと逆にコストアップする事例をよく見かけます。特に上位者がSMTを良く知らない場合往々にして起こりうるようです。


勿論むやみやたらに人を投入するとコストが上がるのは分かっているのですが、ライン本数が何本だから、何人という固定観念は取り払い、ライン構成はもちろん、切り替え頻度や基板品種、その内容など様々な条件を加味して適正な人員構成が必要だと思います。